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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)3687号 判決

第一 管轄の有無について

原告は、本訴において、被告らに対し第一請求ないし第三請求をしているところ、このうち、第三請求は被告会社が不正競争防止法第一条第一項第六号該当行為を行つたことを原因としてこれによる損害賠償請求をするものであつて、被告会社の負う損害賠償債務は民法第四八四条所定の持参債務と解されるから、第三請求は、民事訴訟法第五条の規定により、義務履行地である原告の住所すなわち東京都を管轄区域とする当裁判所が管轄権を有する。

しかして、当裁判所は、右のとおり、第三請求について管轄権を有するから、同一被告に対する第二請求についてもいわゆる請求の客観的併合として民事訴訟法第二一条の規定により管轄権を有する。次に、第一請求について検討するに、民事訴訟法第二一条は、いわゆる請求の主観的併合たる共同訴訟のうち訴訟の目的たる権利又は義務につき民事訴訟法第五九条前段に定める関連性がある場合に適用があると解すべきところ、第一請求と第二請求及び第三請求とは、同一物件(本件物件)について、それが同一の特許発明である本件第一特許発明及び本件第二特許発明の各技術的範囲に属しないということを基本的前提とするものであるから、右各請求は同一の事実上及び法律上の原因に基づくものというべく、したがつて、民事訴訟法第五九条前段に定める関連性を有するから、第一請求についても、第二請求、第三請求とのいわゆる請求の主観的併合として民事訴訟法第二一条の規定により当裁判所が管轄権を有する。被告らは、第三請求については、被告ら主張の理由により明らかに管轄の選択権の濫用であり、当裁判所に本件訴訟の管轄権を認めるべきではない旨主張するけれども、本件における管轄の有無は当該請求の当否によるのではなく、当該請求を理由あらしめるために原告が主張した事実により決すべきであると解すべく、被告らの主張はその前提を欠き採用することができない。

第二 特許権に基づく差止請求権不存在確認請求

一 被告大和が本件第一特許権及び本件第二特許権の各特許権者であること、本件第一明細書及び本件第二明細書の各特許請求の範囲の欄の記載がそれぞれ原告主張のとおりであること(ただし、本件第一明細書の特許請求の範囲の欄の記載中、「湯槽上面閉鎖部の間を蒸気」とあるは、「湯槽上面閉鎖部の間の蒸気」の誤記と認める。)、原告が本件物件を製造販売していること並びに本件物件の構造が別紙物件目録記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、被告大和が、本件物件が本件第一特許発明及び本件第二特許発明の各技術的範囲に属するとして争つていることは本件口頭弁論の全趣旨により明らかである。

二 右に確定した本件第一特許発明の特許請求の範囲の欄の記載と成立に争いがない甲第二一号証(別添特許公報(甲))の記載とを総合すれば、本件第一特許発明は、次の構成要件からなるものと認められる。

A 閉鎖湯槽内を上段から下段にわたつて循環する無端チエン又は金網に麺線を収容するバケツトケースを取付けてあること。

B 上段側のバケツトケースは熱湯水面と湯槽上面閉鎖部の間の蒸気の中を移行し、かつ、下段側のバケツトケースは熱湯水面下を移行するようにしてあること。

C バケツトケースに収容した麺線をまず蒸気で蒸熱し、次に熱湯に浸漬して連続して同一湯槽内にて加温するようにしてあること。

D 茹麺の製造装置であること。

三 本件物件の構造を表示するものであることについて当事者間に争いがない別紙物件目録の記載、成立に争いがない甲第二九ないし第三一号証、乙第七号証、本件口頭弁論の全趣旨によれば、本件物件は次の構造からなるものと認められる。

A´ チエン11はチエンホイル8aを通じて取外し自在の上蓋2を有する第一槽1へ入り、チエンホイル81~6を迂回しつつ第一槽1内の上段から下段にわたつて移動し、次いで以下順次第二槽3ないし第n槽、冷却シヤワー室6、殺菌槽7を経て、更に茹麺排出装置22、麺線収容装置21を通つて再びチエンホイル8aを通じて第一槽1へ戻るように循環し、しかもこのチエン11には麺線を収容するバケツト10が架設されてあること。

B´ 給水管13と蒸気管12がエジエクター19(気水混合器)で合流して熱湯を作り、この熱湯を、エジエクター19(気水混合器)に接続されている給湯管14から第一槽1の内部に開口している給湯口14aにより第一槽1に導き、同槽に熱湯を供給するようにしてあり、他方第一槽1の内部に下部から上部にかけて五段にわたつて設けられた蒸気噴出管9はそれぞれ直接蒸気管12に接続されていて、右蒸気噴出管9によつて第一槽1内に蒸気を供給するようにしてあり、また第一槽1には水位調節装置23、水面計24が備付けられていて水位を任意の位置に調節できるようにしてあること。

C´ 第一槽1は水位調節装置23により同槽内の熱湯水面を調節し、約一三分間で、バケツト10に収容された麺線をまず上蓋2と熱湯水面との間において蒸気により蒸熱をし、続いて熱湯に浸漬して加温茹上げを完了しうるようにしてあること。

D´ 第一槽1は茹麺の製造装置であること。

四 そこで、本件第一特許発明と本件物件の構造とを対比する。

1 前記認定の本件物件の構造A´によれば、本件物件の構造中、取外し自在の上蓋2を有する第一槽1は本件第一特許発明の「閉鎖湯槽」に該当し、チエンホイル8aを通じて第一槽1の上段から下段へわたつて移動し、以下第二槽3ないし第n槽などを経て再びチエンホイル8aを通じて第一槽1へ戻るように循環するところのチエン11は本件第一特許発明の「閉鎖湯槽内を上段から下段に亙つて循環する無端チエン」に該当し、バケツト10は本件第一特許発明の「麺線を収容するバケツトケース」に該当し、そしてチエン11にバケツト10が架設されている構造部分は本件第一特許発明の「無端チエンに麺線を収容するバケツトケースを取付けてある」という要件部分に該当するから、本件物件は本件第一特許発明の構成要件Aを充足する。

ところで、原告は「第一槽1のみを本件第一特許発明にいう「閉鎖湯槽」としてとらえるならば、本件物件におけるチエン11は、第一槽1以外の第二槽3ないし第n槽などにもそれぞれ連結部のチエンホイル8bを介して各槽(室)内を上下縦方向に移動する如く張架されているのであるから、本件第一特許発明にいう「閉鎖湯槽内を循環する」とはいえない」旨主張する。しかし、本件第一特許発明において、無端チエンが閉鎖湯槽内を循環するというのは、無端チエンが閉鎖湯槽内を繰返し通過することを意味するにすぎず、無端チエンが閉鎖湯槽外に出て、他の構造部分を通つて再び閉鎖湯槽内に戻つてくることを除外するものでないことは、前掲甲第二一号証によつて認められる本件第一明細書の「発明の詳細な説明」の欄の記載及び添附図面から明らかである。

2 前記認定の本件物件の構造B´によれば、本件物件の構造中、第一槽1は同槽内に供給される熱湯の水位を水位調節装置23により調節することによつて下部に熱湯部分を構成できるように、また、その上部である熱湯水面と上蓋2との間に蒸気部分を構成できるようになつているから、してみれば上段側のバケツト10は熱湯水面と上蓋2の間の蒸気の中を移行し、かつ、下段側のバケツト10は熱湯水面下を移行するようになつている。したがつて、本件物件は本件第一特許発明の構成要件Bを充足する。

ところで、原告は、本件第一特許発明は上段側のバケツトケースは常に熱湯水面と湯槽上面閉鎖部との間の蒸気の中を移行し、かつ、下段側のバケツトケースは常に熱湯水面下を移行するように構成されているのに対し、本件物件はかかる構成を採るものではなく、<1>茹上げのみ、<2>蒸熱と茹上げ、<3>蒸熱のみの三種類の工程を可変的に行いうるものであり、熱湯の注入度合により、上段側のバケツト10が熱湯水面下を移行することもあるし、逆に下段側のバケツト10が蒸気の中を移行することもあり、いずれの用法も可能であるから、本件物件は本件第一特許発明の構成要件Bを充足しない旨主張する。しかし、いわゆる物の発明において、ある物件が特許発明の技術的範囲に属するかどうかは、当該物件がその構造において当該特許発明の構成を具備しているか否かにかかつているのであつて、当該特許発明の構成を具備する限り、その用法の態様の如何あるいは当該特許発明の構成を具備する構造以外の構造部分の単なる附加はこれを問わないものと解すべきところ、前説示のとおり、本件物件はその構造すなわち第一槽1において本件第一特許発明の構成要件Bを充足している以上、本件物件が原告主張の如く前記<1>、<2>又は<3>の工程を可変的に行いうるとしても、それは本件物件の用法の態様にすぎないかあるいは本件第一特許発明の構成要件を具備する構造に別の構造部分を単に附加したものにすぎないと解されるから、この点をもつて本件物件が本件第一特許発明の構成要件Bを欠如し、その技術的範囲に属しないとすることはできない。よつて原告の前記主張は採用することができない。

3 前記認定の本件物件の構造C´によれば、本件物件では第一槽1という同一湯槽でバケツト10に収容された麺線をまず蒸気により蒸熱をし、続いて熱湯に浸漬して加温茹上げを完了しうるようになつているから、本件物件は本件第一特許発明の構成要件Cを充足する。

4 前記認定の本件物件の構造D´によれば、本件物件が本件第一特許発明の構成要件Dを充足することは明らかである。

5 ところで、原告は、「本件物件は一室n槽が全体として一個の装置(本件第一特許発明の発明の名称に従えば、茹麺の製造装置)を形成するものであり、加温(熱)工程に限つてみても、いわゆる太麺の場合には第n槽を経て、またスパゲテイの場合でも第二槽3を経てはじめて加温(熱)工程が完了するように構成されているものであるから、第二槽3以下を第一槽1に対する単なる附加的装置とみることはできない。よつて、本件物件を本件第一特許発明と対比するにあたつては、第一槽1ないし第n槽を通じての茹上げ機構と本件第一特許発明の構成とを対比すべきである。」旨主張する。しかしながら、前記三の認定から明らかなとおり、本件物件はスパゲテイを製造するには本件第一特許発明の「湯槽」に該当する第一槽1のみでいわゆる加温(熱)工程である、麺線の蒸気による蒸熱加温と熱湯による加温茹上げとを完了しうる構造となつているから、本件物件を本件第一特許発明の構成と対比するにあたつては第一槽1のみで足るものというべく、更に第二槽3以下の茹槽を加えることを要しないものといわなければならない。そして、原告が主張するように、スパゲテイの製造の場合において第二槽3を経てはじめて加温(熱)工程が完了するとしても、以上の説明から明らかなように、それは本件物件の用法の一態様にすぎないかあるいは右第二槽3が本件第一特許発明の構成要件を具備する構造(第一槽1)に単に附加された構造部分にすぎないと解されるから原告の右主張は理由がないものといわなければならない。もつとも、この点について原告は更に「蒸茹麺につき、もしこれを第一槽1のみで蒸気による蒸気加温と熱湯による加温茹上げという加温(熱)工程とを完了しえたとしても、右加温(熱)工程において麺線の癒着を避けることができないから、第一槽1のみの蒸し茹ででは癒着の生じた、商品価値のない蒸茹麺しか製造することができない。したがつて、本件物件においては、麺線に癒着を生じさせないために、第一槽1の茹で時間の不足の補充と癒着状態のほぐし作用をするように設計されている第二槽3ないし第n槽は必須の装置であつて、第一槽1に対する附加的装置とみることができない」旨主張するけれども、本件第一特許発明の前記特許請求の範囲の欄の記載に前掲甲第二一号証によつて認めるところの発明の詳細な説明の欄の記載、特に「生麺線を収容したバケツトケース5は入口15から湯槽2の上段蒸気部に入り、……蒸気の中を移動する間に麺線は高温蒸気で加温されて同麺線の温度は上昇し表面から順次α化されてゆく、その後バケツトケース5が……下段側に移り茹湯3の水面下に浸漬し……麺線は充分加温されて茹上げられるものである。茹湯3の内部を通過した下段側のバケツトケース5は……出口16から槽外に移行し……冷水シヤワー19の下を通過して冷水を浴びて冷却され……バケツトケース5の蓋が自動的に開き茹上げられた製品を落下シユート17に排出することができる。」(別添特許公報(甲)二欄一二行から二八行)との記載及び図面に示されたところを参酌し、かつ、右詳細な説明の欄の記載及び図面中に、麺線の癒着を生じないようにするための構成を示唆する記載を見出しえないことに徴すれば、本件第一特許発明は「バケツトケースに収容した麺線をまず蒸気で蒸熱し、次に熱湯に浸漬して連続して同一湯槽内にて加温するようにしてあること」を構成要件(構成要件C)とするけれども、右にいう「加温するようにしてあること」というのは、単に生麺線を茹上げることを意味するに止まり、それ以上に茹上げる際に麺線に癒着を生じさせないようにすることまでその構成要素とするものではないといわなければならない。しかして前掲甲第二一号証によれば、本件第一明細書の発明の詳細な説明の欄に、本件第一特許発明の作用効果の一つとして「美味でつやのあるきわめて品質のよい製品が得られる」(別添特許公報(甲)四欄三、四行)という記載のあることが認められるけれども、右作用効果は前掲甲第二一号証によつて認めうるところの発明の詳細な説明の欄の記載及び図面に徴しても、麺線に癒着を生じさせない構成によるものとは認め難い(もつとも、本件第一特許発明の実施品であるとするもののなかに、癒着を生じさせないような構成を具備した物件があつたとしても、それは本件第一特許発明の構成に右構成を単に附加した物件にすぎないというべきである。)。してみると、原告が主張する前記理由により本件物件において第二槽3ないし第n槽が必須の装置であるとしても、そのことは本件第一特許発明と本件物件の構造との対比に関する前記判断を左右するものではない。

6 以上のとおりであるから、本件物件は、本件第一特許発明の構成要件をことごとく具備しているから、その技術的範囲に属するといわなければならない。

五 ところで、原告は、「本件第一特許発明は先願にかかる実用新案出願公告昭四三―五五九四号公報の考案と構成並びに作用効果において同一であるから、本件第一特許発明についての特許は特許法第一二三条第一項第一号、第三九条第三項の規定により無効とされるべきものであるところ、かかる明白な無効原因を有する本件第一特許発明の技術的範囲は明細書の記載に従い最も狭く実施例そのものに限定して解釈すべきものである。けだし、このような解釈の仕方は、構成要件が当該特許発明の特許出願前全て公知である特許発明の技術的範囲の解釈について一般に承認されているところであつて、この理は構成要件の全てが先願にかかる考案のものと同一である特許発明の技術的範囲の解釈についても妥当するからである。」旨主張する。

よつて、検討するに、前記一で確定した本件第一特許発明の特許請求の範囲の欄の記載、前掲甲第二一号証、成立に争いがない甲第二六号証を総合すれば、本件第一特許発明、実用新案出願公告昭四三―五五九四号公報の考案は、いずれも麺線を収容する装置に収容した麺線を蒸気により蒸熱加温し、次に熱湯による加温茹上げを湯槽内で連続して行う装置であること、右考案の実用新案登録出願前の先行技術として、「一連のワイヤー又はレールを平面的に巡回配設し、これより垂下がつたまゝのバケツトを運行させてバケツト中の生麺を高温の湯面上及湯中を巡回させ連続処理を行う」(別添実用新案公報左欄一八行ないし二一行)茹麺装置があつたこと、右考案は、「従来の茹上装置におけるバケツト巡回運行を改良し金網を横置式に循環させて蒸、茹上工程を順行させ」(同公報左欄二七行ないし二九行)るものであるが、本件第一特許発明は麺線収容装置として右の先行技術と同様にバケツトケースを設けてあること、麺線収容装置として、右考案では循環する金網コンベアーの外周に直接金網区画板を水車状に固定してある構成であるのに対し、本件第一特許発明では循環する無端チエン又は金網にこれとは別個にバケツトケースを取付けてある構成であること、がそれぞれ認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

以上の認定事実によれば、右考案は、麺線収容装置として、先行技術におけるバケツトの代わりに金網コンベアーの外周に水車状に金網区画板をもつて構成した点に一つの特徴があるものと解されるところ、本件第一特許発明の麺線収容装置はバケツトケースであること、そして、右考案において、金網コンベアーの外周に水車状に金網区画板をもつて構成する代わりに本件第一特許発明におけるようなバケツトケースを設けることは単なる慣用手段の転換と認めるに足る証拠はないことに徴すれば、右考案と本件第一特許発明とが同一とは解しえないから、これが同一であることを前提とする原告の主張は採用できない。

六 前記一で確定した本件第二特許発明の特許請求の範囲の欄の記載と成立に争いがない甲第二号証(別添特許公報(乙))の記載を総合すれば、本件第二特許発明は次の構成要件からなるものと認められる。

A 茹槽の上部から茹槽の内部に至り、水面下を横向きに移動した後、上下反転して、反対向きとなり、更に横向きに水面下を移動した後、再び茹槽の上部に至る循環動作を繰返す回動チエンに多孔容器を架設してあること。

B 多孔容器には開閉自在の蓋を枢着してあること。

C 水面に向う上向多孔容器の蓋を開閉して生麺を多孔容器に収容する装置を設けてあること。

D 反転して水面から上方に向う下向多孔容器の蓋を開閉して茹麺を排出する装置を設けてあること。

E 麺線連続茹上装置であること。

七 本件物件が本件第二特許発明の技術的範囲に属するかどうかについて検討するに、まず本件第二特許発明にいう回動チエンの「上下反転」の回数について考察する。

前記一で確定した本件第二明細書の特許請求の範囲の欄には、回動チエンにつき、その上下反転が一回にとどまるのか、二回以上に及ぶのかの記載はないけれども、「茹槽の上部から茹槽の内部に至り、水面下を横向に移動した後上下反転して反対向となりさらに横向に水面下を移動した後再び茹槽の上部に至る循環動作を繰返す回動チエン……」と記載されており、右記載内容によれば、茹槽の上部からはじまり再び茹槽の上部に至る間における回動チエンの上下反転の回数は一回であることを窺わせるところ、この事実に、前掲甲第二号証によれば、発明の詳細な説明の欄に、回動チエンについて「本発明は上述のように茹槽1の上部から茹槽1の内部に至り、反転して再び茹槽1の上部に至る循環動作を繰返す」(別添特許公報(乙)四欄二行から四行)と記載され、また、回動チエンに架設されている多孔容器について、「多孔容器3は茹槽1の中の茹湯の内部を往復反転し」(別添特許公報(乙)四欄九、一〇行)と記載されているので、これら記載から、多孔容器は、茹槽の上部から茹槽の内部に至る行程すなわち往行程と、茹槽の内部から茹槽の上部に至る行程すなわち復行程との二つの動作を行うこと、したがつて右往復反転にいう「反転」とは、一回の上下反転を意味していることを認めうることを併せ考えれば、前記回動チエンの「上下反転」の回数は、一回であるといわなければならない。

かように、本件第二特許発明にいう回動チエンの「上下反転」の回数が一回であることは、本件第二特許発明の出願経過に照らしても首肯しうるところである。すなわち、成立に争いがない甲第四、第五、第七号証によれば、審査官は出願人である被告大和に対し、昭和四七年一〇月三一日付拒絶理由通知書をもつて、特許出願公告昭三九―二〇二〇三号公報、同昭四〇―二七五〇四号公報を引用し、本件第二特許発明はこれら公報に記載の発明により容易に発明することができる程度のものであるから特許法第二九条第二項の規定により特許を受けることができない旨の拒絶理由を示したのに対し、被告大和は、昭和四七年一二月二二日付の意見書において「(2)第1の御引例の特公昭三九―二〇二〇三号の公報記載の自動ゆで麺製造装置では半円筒形バケツト13が湯槽6内を上下方向に幾度も反転蛇行するので収容麺が水中で幾度も繰返し反転し、麺線の表面に無理な力が加わり、表面が荒れて澱粉質が溶出し、製品の歩止りを低下させると共に麺の品質を低下させる欠陥がある」「(3)本願の発明は上述の欠陥がないし、……特許法第二九条第二項の規定には該当しない」と記載していることが認められ、以上の事実によれば、同被告は、公知例である特許出願公告昭三九―二〇二〇三号公報に係る発明の欠陥すなわち「麺線の表面に無理な力が加わり、表面が荒れて澱粉質が溶出し、製品の歩止りを低下させると共に麺の品質を低下させる欠陥」は、「収容麺が水中で幾度も繰返し反転」することによるものであり、この「収容麺が水中で幾度も繰返し反転」するのは、とりも直さず麺を収容している半円筒形バケツト13が「湯槽6内を……幾度も反転」することによる結果であると指摘し、本件第二特許発明は右公知例に係る発明の半円筒形バケツト13に相当する本件第二特許発明の多孔容器の上下反転の回数を一回にとどめたから、右公知例にみられる右欠陥がないこと、したがつて回動チエンの「上下反転」の回数は一回であることを強調したものと解するのが相当である。被告らは、右意見書の記載は、公知例(特許出願公告昭三九―二〇二〇三号公報)との対比において本件第二特許発明は多孔容器したがつて回動チエンの移動方向が横方向であることを強調したものであつて、上下反転の回数を限定したものではないとか、右意見書に述べられている欠陥は本件第二特許発明の出願当時の技術水準などから判断すると、半円筒形バケツト13の反転蛇行を上下方向にすることに起因するものであつて、幾度も繰返すことに起因するものではない旨主張するけれども、これら主張の採りえないこと以上の説明から明らかである。また、被告らは、出願人である被告大和が審査官に対し、前記意見書とともに手続補正書を提出し、同書において、本件第二特許発明の多孔容器の反転の方向を明確にするため、従来の明細書に「反転して」とあるのを、本件第二明細書にあるように「水面下を横向に移動した後上下反転して反対向きとなりさらに横向きに水面下を移動した後」と補正したことからも、本件第二特許発明は多孔容器したがつて回動チエンの移動方向が横方向であることを明らかにしたものであつて、上下反転の回数を限定したものではない旨主張するところ、なるほど成立に争いがない乙第三号証によれば、被告らの主張する前記補正がなされたことが認められるけれども、多孔容器の移動方向を横方向とすることと上下反転の回数を限定することとは相容れない関係ではないから、右補正がなされたからといつて、前記意見書において強調されているところの上下反転の回数を限定するということはいささかも否定されるものではない。よつて、被告らの右主張は理由がない。更に被告らは、本件第二明細書の特許請求の範囲の欄の記載中の「水面下を横向に移動した後上下反転して反対向となりさらに横向に水面下を移動した後再び茹槽の上部に至る循環動作を繰返す」という意味は、上下反転を含む循環動作を何回も重複して記載する代わりにこのように「繰返す」という文言をもつて簡略に表現したものであるから、本件第二特許発明にいう回動チエンの上下反転は唯一回に限定されない旨主張するが、前記一で確定した本件第二特許発明の特許請求の範囲の欄の記載によれば、右にいう「繰返す」とは、回動チエンが茹槽の上部から茹槽の内部に至り、水面下を横向に移動した後上下反転して反対向となり、更に横向に水面下を移動して再び茹槽の上部に至るという動作を一動作とし、このような動作が同一場所たる茹槽において繰返されることを意味すること明らかで、茹槽の上部から水中に入り、再び茹槽の上部に至る回動チエンが、その間に複数回反転することを指称するものではないから、右「繰返す」の文言のみをもつて回動チエンの上下反転回数を二回以上と解しようとする被告らの前記主張は、到底採りえない。

そこで、本件第二特許発明の構成要件Aにいう回動チエンの「上下反転」の回数が一回であることを前提に、本件物件と本件第二特許発明とを対比するに、別紙物件目録の記載及び前掲甲第二九、第三〇号証、乙第七号証、本件口頭弁論の全趣旨を総合すれば、本件第二特許発明に相当する麺線連続茹上装置としての本件物件においては、本件第二特許発明の回動チエンに該当するチエン11は、第一槽1におけるチエンホイル82、83、84、85においてそれぞれ上下反転し、結局四回上下反転するし、また第二槽3ないし第n槽における各三個のチエンホイルにおいてもそれぞれ上下反転し、結局各三回上下反転することを認めうるから、本件物件は本件第二特許発明の構成要件Aを充足しない。

よつて、本件物件は、その余の点につき判断するまでもなく本件第二特許発明の技術的範囲に属しない。

八 以上のとおりであるから、被告大和が本件第一特許権に基づいて、原告が本件物件を製造販売することを差止める権利を有しないことの確認を求める原告の請求は理由がないけれども、他方被告大和が本件第二特許権に基づいて、原告が本件物件を製造販売することを差止める権利を有しないことの確認を求める原告の請求は理由がある。

第三 不正競争防止法第一条第一項第六号に基づく請求

一 原告、被告会社がいずれも自動製麺機の製造販売などを営む株式会社であることは当事者間に争いがない。右事実によれば、原告は被告会社との関係で不正競争防止法第一条第一項第六号にいう競争関係にあるものということができる。

二1 本件第一特許権についての原告の被告会社に対する不正競争防止法第一条第一項第六号に基づく請求については、前記第二における判断によれば、本件物件は本件第一特許発明の技術的範囲に属するものであるから、これが技術的範囲に属しないことを前提とする原告の被告会社に対する右請求は、その前提を欠き理由がないものといわなければならない。

2 被告会社が、昭和五〇年二月二七日付原告主張の内容証明郵便をもつて、原告の取引先である有限会社森田商店に対し、本件物件は本件第二特許権に抵触するものであるから、直ちに右物件の使用を中止し、これを撤去すべきこと、もし中止しないときはしかるべき法的手続をとる旨警告したことは当事者間に争いがないけれども、原告が請求の原因2(二)(2)で主張する事実を認めるに足る証拠はない。もつとも成立に争いがない甲第一〇ないし第一二号証、証人中村弘の証言、本件口頭弁論の全趣旨を総合すれば、被告会社は、昭和五〇年二月二八日付内容証明郵便にて原告の取引先である小田急商事株式会社に対し「お願い」と題する別紙第一目録記載の内容からなる書面を送付したこと、更に昭和五〇年三月一八日付内容証明郵便にて原告の取引先である田口屋製麺所、桑名製麺所有限会社に対し、それぞれ「お願い」と題する別紙第二目録記載の内容からなる書面を送付したことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

右認定事実によれば、被告会社から原告の取引先である小田急商事株式会社、田口屋製麺所、桑名製麺所有限会社に対して送付された書面の内容は、直接的には、原告の取引先に対して、自動製麺機を発注する際には被告会社の管理する工業所有権等に抵触することのないよう調査すべき旨注意を喚起したものとはいうものの、言外で、本件物件が被告会社の管理する本件第二特許権を含む工業所有権を侵害しているおそれがある旨を述べたものとの印象を与え、紛争に巻き込まれることを好まない第三者に本件物件の購入を差控えさせるに十分の効果を有するものと解しうべく、その意味で、不正競争防止法第一条第一項第六号の適用上問題なしとしないが、右書面は、「被告会社の管理する工業所有権等」とあつて本件第二特許権と特定したものではないところ、本件においては本件物件が本件第一特許権に抵触することは前記第一のとおりであり、本件第一特許権も「被告会社の管理する工業所有権等」に含まれるものであるから、結局、右書面の内容は、これをもつて直ちに「虚偽ノ事実」とは必らずしも断定し難い。したがつて、前記第二において判断したとおり、本件物件は本件第二特許発明の技術的範囲に属しないけれども、これらの書面の送付は不正競争防止法第一条第一項第六号にいう「虚偽ノ事実ヲ陳述シ又ハ之ヲ流布スル行為」に該当するものとは認められないといわざるをえない。

しかし、前記のとおり被告会社は昭和五〇年二月二七日付原告主張の内容証明郵便をもつて、原告の取引先である有限会社森田商店に対し、本件物件は本件第二特許権に抵触するものであるとして、その使用中止並びに本件物件の撤去などを警告したものであるところ、前記第二において判断したとおり、本件物件は本件第二特許発明の技術的範囲に属しないのであるから、被告会社が有限会社森田商店に対してなした右警告の内容のうち、本件物件が本件第二特許権に抵触するとの部分は真実に反しており、しかも右警告が原告の営業上の信用を害するものであることは右警告の内容自体から明らかである。してみると、被告会社の右行為は不正競争防止法第一条第一項第六号にいう「他人ノ営業上ノ信用ヲ害スル虚偽ノ事実ヲ陳述スル行為」に該当する。しかして、被告会社が、右のとおり同法同条項に該当する行為をしたこと及び本件物件が本件第二特許発明の技術的範囲に属するとして争つていること並びに本件口頭弁論の全趣旨によれば、被告会社は、将来においても、原告において本件物件を販売することが本件第二特許権を侵害する旨を、原告の取引先その他の第三者に対し、陳述しあるいはこれを流布するおそれがあるものと認められる。してみると、本件第二特許権についての原告の被告会社に対する同法同条項に基づく請求は理由がある。

第四 不正競争防止法第一条ノ二に基づく請求

成立に争いがない甲第一九号証の一ないし六、証人佐藤不二磨の証言、原告会社代表者の尋問の結果によれば、原告は、昭和四九年夏ごろより小田急商事株式会社との間で本件物件の売買取引の交渉を重ね、その結果に基づいて昭和五〇年三月七日ころ同社に対し、その承認を得られることが期待できた最終的な見積書を提出し、本件物件についての注文を受けうる状態にあつたところ、同社より昭和五〇年三月一七日ころ、かねて被告会社から送付されていた前記認定にかかる内容の「お願い」と題する書面を呈示されたうえ、「本件物件が被告会社の管理する特許権を侵害しているかどうかにかかわりなく、右特許権に関する紛争に巻き込まれたくないので本件物件の注文を断念する」旨を通告されたことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

右認定事実によれば、小田急商事株式会社が本件物件の注文を断念し、結局同会社と原告との間で進行していた本件物件の売買契約交渉が成立しなかつたのは、被告会社から小田急商事株式会社へ送付された「お願い」と題する右書面が契機となつていると認めうるけれども、前記第三、二2で説示したとおり、右書面の送付が不正競争防止法第一条第一項第六号に該当するものとは認められないこと前記のとおりであるから、これが該当することを前提とする原告の被告会社に対する同法第一条ノ二に基づく請求はこの点においてすでに理由がない。

第五 結論

よつて、原告の被告大和に対する本件第二特許権に基づく差止請求権不存在確認請求及び本件第二特許権についての原告の被告会社に対する不正競争防止法第一条第一項第六号に基づく請求は相当として認容し、被告大和及び被告会社に対するその余の各請求は失当として棄却することとする。

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